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もしかしてトホホ(http://blog.livedoor.jp/takurere1025/)の別館です。表現系に特化して更新します。


by koharu-annex

五輪男子 その4

昔、小学生の夏休みの作文だか絵日記だかで「ぼくは、お祭りのかえり道の、さびしい感じが大っきらいだ。」と書かれた文章を読んだことがあって、その瞬間の切り取り方の明晰さとストレートさにいたく感心したことがありました。

ソチ五輪閉会からこっち、皆様はいかがお過ごしですか。

ワタクシは、最近ご近所の老婦人から新興宗教に熱心に勧誘されていて、ここ10日ほど、ちょっとブルーに過ごしております。私、そんなに不幸そうに見えたかなあ…。

そういや、以前泊まりがけ人間ドッグに行った時も、一緒に回るグループにいらっしゃった奥様(50代後半?)から、就寝前に別の新興宗教のパンフレットを渡されました。昔から不幸そうだったってこと!?


<日本> 3枠
●羽生結弦(19歳) 総合1位
SP=パリの散歩道(振付:ジェフリー・バトル)
FS=ニーノ・ロータ 映画『ロミオとジュリエット』より(振付:デビッド・ウィルソン)

SPで使用された「パリの散歩道」が、五輪の羽生君の演技によって注目されているといういくつかのニュースがあって(着メロだかで1位になったこと含め)、軽くショック。なぜって、このSPは昨季からの持ち越しなので、羽生君は足かけ3年これをバックに滑っているんですよ。しかも、このSPは非常に評価が高く、これまで何度も世界最高得点を更新してきた。チャンさんとのデッドヒートもこの演目を中心になされてきた。GPS・全日本・ワールド、いずれも地上波放送されているっていうのに、ようやく五輪で認知されるって・・・普段どれだけ見られていないのかってことですよね。それがね、ちょっとショックだったの。

さて、パフォーマンス。
SP、やはり足かけ3年滑り込んできた事実と、高い評価を得てきた自信は裏切らないですね。冒頭の身体の動きは、ちょい流しぎみ。緊張感を感じつつも、その一方で、流しながらも的確に音に乗っている姿は、身体に音楽が染みついていることが如実に分かり、ちょっとした身体の余裕すら感じました。全体を通したパフォーマンスとしても、振付を頭に思い描いている素振りは一切なく、むしろ焦りのない余裕が感じられ、その余裕が斜に構えたロッカーと重なり、表現面での完成度もかなり高い。いや、もちろん、セクスィー部長(@サラリーマンNEO)とはちと違う方向ですが(笑)。

当初は、このエレキギターのうねりまくる音が、今よりもっと若かった彼(17歳)とは齟齬があったのですが、10代の2年は怖いですね、19歳になった彼が音楽に追いついてきました。スケーティングスキルが進歩して、スケートの伸びが良くなってきたことも一因かもしれません。

FS、「おしっ、次(←ワールド)行こうか!」と言いたくなる(笑)。本人もそうみたいですね。それが・あなたの・いいと・こ・ろ♪(←昔大流行したCMコピー)。曲がりなりにも金メダルを取ったのだけど、気持ちの中で納得できないものが残る以上、「いーじゃん、金メダルなんだから満足しちゃお!」みたいな甘さ・緩さが一切ないところが、ホントにいい。

金メダルを獲得した後、つまり「今現在も」、何より競技としてのフィギュアスケートが好きであること、競技としてのフィギュアスケートに関する健全な野心を持っていること(自分に欠けている技術の習得、パーフェクトな演技、誰も跳んでいない種類の4回転の成功などなど)、その健全な野心を実現するために真摯に努力していく意思がちゃんとあること、これは素晴らしいことです。男女問わず歴代の金メダリストには、そうでない人もいらっしゃいますから。「そうでない人」をことさら非難する必要はありませんが、しかし「そうでない人」よりも羽生君のような人を好ましく思ってしまうのが人情、というのは確実にあると思う。

また、羽生君が述べた、金メダル獲得に対する唯一の積極的評価が、自分が同じ金メダリストになったことにより、かつて荒川さんが地元のスケート場を救ったような影響力を持つことができるかもしれない、そうすれば震災復興に役立つことができるかもしれない、という極めて謙虚かつ極めて健気でひたむきな事柄であった点は、いろいろなことを考えさせられました。何よりあの震災の甚大さと復興がまだまだ道半ばであることを改めて認識させてくれました。来る311には、被災地に何が必要なのか、そして自分に何ができるのかを、改めて考えたいと思います。


●町田樹(23歳) 総合5位
SP=エデンの東(振付:フィリップ・ミルズ)
FS=火の鳥(振付:フィリップ・ミルズ)

町田さん、五輪の前にパーマかけたんですかね?それともコテ?
自分でもまだ慣れないのでしょうね、髪型を気にし過ぎているような気がする。気持ちは分かるけど。

SP、最終滑走でしかも高橋さんの直後という滑走順も影響したのかもしれませんが、残念この上なし。もう、テレビの前で悶絶するほど(こちら参照)、町田さんの悔しさにシンクロしたわ。なぜ、ルッツがダブルにっ…!?まさかの二代目練習番長?おやめなはれ~

本田さんは身体のキレが良かったって言ってたけど。私は、冒頭こそ、いつもの動きだと思ったけれど、すぐに動きがちょっと硬いと思ったんですよね…。もともとスムーズなムーブメントの人ではないし、スケートが綺麗に伸びる人でもないけれども、いつもはもう少しスムーズさと流れがあると思うのよ。こういう大舞台で普段の力を発揮できないのは、多くの選手に共通することだけれども、ティムシェルという印象的な言葉を提供して自ら五輪切符をもぎとるという「有言実行」を成し遂げてきただけに、本当に胸が苦しかった。

FS、冒頭の4回転、綺麗に回ったと思った直後に転倒。次の4回転コンビネーションジャンプが決まって勢いが戻りましたかね。とはいえ、その次の3‐3に至るまでの間、強いアクセントの付いた音楽に合わせてある印象的な振付が、ほんの少しずつ音に遅れていたので、ヒヤヒヤしながら見ていました。最終的には、野暮ったい肌色部分がちと残念な今季衣装はさておき(火の鳥は昨季からの持ち越しなのだけど、私は昨季から使っていた衣装の方が好き)、まずまずの火の鳥だったのではないでしょうか。


●高橋大輔(27歳) 総合6位
SP=バイオリンのためのソナチネ(振付:宮本賢二)
FS=ビートルズメドレー(振付:ローリー・ニコル)

SP、ゴーストライター騒動(この文章を書いている当日に、佐村河内氏が自分が全盲全聾(←コメント欄で複数ご指摘頂きまして修正します。あんま興味がないってのがバレバレだな。笑)ってのはウソでしたという記者会見をしたんだけど、この一連の騒ぎの実態と本質が何なのか、私は今でも釈然としないわ)はさておき、この楽曲そのものは素敵だし、振付の宮本さんの力もあって、フィギュアスケート選手の中では誰よりも高橋さんが上手な、ゾクゾクするような絶妙な緩急のついたムーブメントが生きるタイプの演目だと思います。

全日本での出来やその後の代表選出に関するモヤモヤもあり、この五輪で全てを払拭するパワーのある演技、つまりはNHK杯のような演技を期待してしまったのが悪かったのだと思うのですが。そして、脚や膝に痛さもあっての演技だったでしょうから、仕方ないとは思うのですが。純粋に表現面からいえば、「凄み」が足りないと思いました。この楽曲ね、優しく丸く音楽に熔けていくだけの高橋さんじゃちょっと物足りないんですよね。

高橋さんがこの楽曲に感じたと言う「絶望の中の光」、それは確かにこの音楽の中に存在する。わずかではあっても確かな光がそこにはあるんだけど、その光が射してこんでいる現況は果てしなく複雑で重い。この楽曲の表現は、激烈さ・酷薄さ・酷寒さという類の「峻烈な厳しさ」が存在すると、より胸の奥まで響くというか、万人を納得させ得るものになる。音楽に乗っているだけの動き、緩い辛さと希望を表す表現だけでは、全てを表現しきれない印象。ここに「緩い辛さ」は、その反面で「甘さ」と「優しさ」に通じる。そして、音楽に蕩けていくような優しさと甘さは、素の高橋さんのムーブメントの大きな特徴。つまりは、高橋さんの「素」のムーブメントだけでは、この楽曲には不十分で、激しい緩急も含めそこに何らかの作為的なものが必要になってくる。

ところが、今回は、おそらく脚のことがあったのでしょうね、作為的な意思をもってムーブメントを構築するだけの余裕がなかったように思います。これまで高橋さんは、演目によっては必要であった「作為的な意思」を、敢えて顕在化させないでも、天才的な表現の地力で目指すべき表現をナチュラルに成し遂げていたことが多々ありました。しかし、今回はそれも難しかったか。結果として、今、言えることは、今季のSP演技の中では、NHK杯がベストだったということですわね。

FS、フライングで書いたので(こちら)、呆けてこれ以上書けないと思っていたんですが、とりあえず書いてみる。FSは、SPとは逆に「素」の高橋さんを躊躇なくそのまま出してしまうことが、最も適する演目。そこに必要なのは、高橋さんの愛、それだけ。ローリーさん、やっぱり天才かも。この演目から感じられる、ふわりと柔らかく、優しい、深い愛。これをここまで引きだしたのは、見事としか言いようがない。

今回の、ある意味、心の整理がついたような、毒気や邪心が全く感じられない「小ざっぱりとした」とも言える演技は、思い入れのない人(特に五輪だけ見た人)には、物足りなさを感じさせる一面もあるかもしれない。だけど、色んな思いを底に沈めて、澄んだ上澄みだけを、達観した笑顔とともに見せることができるのは、やはり選ばれた人にしか不可能だと、私は思う。


<フィリピン> 1枠
●マイケル・クリスチャン・マルティネス(17歳) 総合19位
SP: Romeo and Juliet by Arthur Fiedler(振付:フィリップ・ミルズ)
FS: マラゲーニャ(振付:ジャスティン・ディロン)

ソチ五輪全競技の中で、唯一のフィリピン代表とか。しかも、フィギュア男子シングル出場選手の中では、最年少の17歳。何かと心細かったと思いますが、良く頑張られました。

凛々 しい眉毛と、大きな瞳、小麦色の肌と細身の体が、とても魅力的なアジア男子です。コーチとは別にイリヤ・クーリックさんからも指導を受けられているそうですが、柔軟性があり、若さ溢れるエネルギッシュなムーブメントが魅力的です。洗練されているとはまだまだ言えないけれど、目力とともにやられると、うっかり心が持っていかれそうになります。ご用心、ご用心(笑)。

SPはロミオ。衣装はヒストリカルなイメージの少々重めのものですが、まだ若くて細い体型なので初々しさが感じられます。技術的な詰めの甘さがあって、点数は少し伸びませんでしたが、ラストのビールマンスピンといい、情熱を込めたマイムのこなし具合といい、パフォーマンスは魅力的でした。やっぱり若者が演じるロミオは良いですね。

対してFSは、まだまだ振付をこなすのに精一杯な印象。フリーに進めるよう、SP突破に力点を置いて練習してきたせいかもしれませんね。


<フランス> 2枠
●ブライアン・ジュベール(29歳) 総合13位
SP=オブリビオン (振付:マキシム・スタビスキー)
FS=アランフェス協奏曲(振付:ローリー・メイ)

プル様が棄権なさったので、最年長となったジュベールさんです。SP・FSとも肌の透けるシースルーを主体にした衣装で、おフランス男性の心意気を感じます。バンクーバー後のシーズンだったかな、彼を評して「繊細な芳香のようなものがある」と書いたことがあるんですが、今やダイレクトに男の色気フレグランスが(←それでも「フレグランス」ってところがジュベールさんです)。男の人ってこのくらいから素敵になるのよね、とひとりごちたワタクシでありました。その彼がソチで引退を表明。そういう意味では、フィギュアスケートって、ホント、青臭い若者中心のスポーツだわね。

SP、セクシーな黒のシースルー地に、首からウエストにかけて炎のような色のキラキラ溶岩が流れ伝っている、色んな意味で熱い衣装です。軸が少々曲がっておろうが、タイミングがずれようが、技術力でジャンプを降りてくる力技なまとめ具合は、マチュアな男性がやるとエロさすら感じます。全体を通してスピード感には欠けましたし、もともと器用に動くタイプではないのですが、ムーブメントに大人な雰囲気があり、セクシーな存在感があって、まさにスター、でありました。

FSも、襟と袖口のみ蛍光赤のほかは、モアレのような黒と赤のシースルー地。胸のV字も深めなのですが、おへそまできっちり透けて見える生地の方に目が行くという、ジュベールさん以外許してもらえなさそうな衣装でございます。

元々柔軟性がある方ではありませんが、年齢を重ねるに従い、やはり更に身体は硬くなっています。昨今流行りのつなぎテンコ盛り感が皆無であることはさておき、身体の硬さによる表現手段の狭さは、なかなか厳しいものがあります。SPでは大人な雰囲気とセクシーな存在感で全てをフォローしていましたが、長いFSでは、それだけではもたなかった印象。どんどんトラベリングするスピンも、悪い意味で目を引きました。

ところで、純粋な順位での「全盛期」というものは、正確にはキャリアが終わってから「いつ頃だったね」と言えるものですが。ジュベールさんの場合、2006~2007シーズン(22歳)が突出している。出場した試合全てで金メダル(ウィキさんのこちら参照)。その前後1シーズンずつ合わせて2005~2008が彼の全盛期と言えそう。

4回も五輪に出場している彼だけど、五輪の表彰台には縁が無かった。フィギュアスケートの採点システムの歪み具合や、特に歪みがひどかった時期についての論評はさておくとしても、五輪って4年に1回しかないので、ジュベールさんのように五輪に縁がない選手の方がきっと多いよね。そうである以上、フィギュアスケートの名選手を考える時に、決して五輪の結果のみで、測っちゃいけないなあとつくづく思います。


●フローラン・アモディオ(23歳) 総合18位
SP=ラ・クンパルシータほか(振付:ステファン・ランビエール)
FS=Under The Moon/Happy/バラ色の人生(振付:マリナ・アニシナ)

モロゾフさんの元を離れたアモディオ君ですが、技術要素とくにジャンプの調子がどうにも上がりきらない様子。バンクーバーの後は、将来ソチのメダル争いに絡んでくるかもしれないと予想されたこともあったのですが、特にFSの出来が悪くて…なかなかツライ五輪となってしまいました。

SP、フィギュアスケートで頻繁に使用されるタンゴの名曲。アモディオ君の衣装も胸が広めに開いてて(チャンさんと良い勝負だ。笑)、アルゼンチン・タンゴのセクシーさをアピール。

このSPは、ランビエールさんの振付なんですね。昔、町田君がランビさんの振付を滑った際には、特にシーズン最初の方では、身体のこなしにランビさんの亡霊が常に見えたものでした。これに対しアモディオ君の滑りに「亡霊」は見えません。この点、アモディオ・カラーの濃さを褒めるべきなのか、それとも「自分カラーに満足するな、最初はランビの完全模倣でもいい、別の次元に行け!」と叱咤すべきなのかは、人それぞれ考え方があるでしょう。

私は、今回のアモディオ君のパフォーマンスについては、圧倒的に後者ですね。もちろん、ランビさんの指導はそれなりにあったのでしょう、例えばステップのところなどではアモディオ・カラーを抑えたムーブメントを意識している部分も感じられました。ですが、それよりも数多く「やりきれなくて自己流でやってるな…」と思われる動きがかなりあったと思う。正直、技術要素があまりにも不安定過ぎるので、当初目標としていた表現面まで手が回らなかったのだろうとは思います。

FSは、辛すぎる結果でした。4回転はおろか、いくつか3回転の予定だったであろうものが2回転になった上、コンビネーション・ジャンプが1つも入らず、2回目の3Aはシークエンス扱いの低い基礎点に。冒頭の「冴えないやさぐれ男」表情は秀逸でしたが、それが最も良かったところだったという(泣)。毎度、彼の演技に何箇所かある「立ち止まり」ポイントが、長く頻繁に、しかも絶望して少々投げやりにも感じられました。キスクラでの落涙は、見ていられない感じ。全ては技術要素の安定からなのでしょうね。どなたかジャンプを矯正して下さる上手いコーチはいらっしゃらないのかしら。


以上で男子は終わりです。



by Koharu-annex | 2014-03-09 19:17 | 2013-2014 フィギュアスケート