もしかしてトホホ(http://blog.livedoor.jp/takurere1025/)の別館です。表現系に特化して更新します。


by koharu-annex

カテゴリ:バレエ(英国ロイヤル)( 6 )

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団2011年日本公演
2011年5月29日(日)午後3時~ @東京文化会館

●「ダフニスとクロエ」
音楽: ラヴェル
振付: アシュトン

指揮: フィリップ・エリス
演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【出演】
クロエ(羊飼い): ナターシャ・オートレッド
ダフニス(山羊飼い): ジェイミー・ボンド
リュカイオン(都会から来た人妻): アンブラ・ヴァッロ
ドルコン(牧夫): マシュー・ローレンス
ブリュアクシス(海賊の首領): アレクサンダー・キャンベル
パンの神: トム・ロジャース
ニンフたち: ヴィクトリア・マール、ジェンナ・ロバーツ、アンドレア・トレディニック

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これは好き嫌いが分かれる演目だと思いました。アシュトンの振付が苦手でなくとも、この振付は好みじゃないと思われる方もいらっしゃるだろうし、特定の時代設定を嫌ったためか(?)人間達の衣装のみ中途半端に都会的・現代的になってるところも、違和感を感じる人がいらっしゃるのではないかと。ギリシャ時代の衣装にしろとは言いませんが、衣装を都会的・現代風にしたのならば「羊飼い」「山羊飼い」等の設定もいっそ変えた方が、しっくり行くような気が・・・

全くこの作品とは関係ないけど、私は、昨年このブログのコメント欄で、「牧神の午後」を端緒として、下半身のモコモコを始めとした「パン」(牧神)の話題で盛り上がって以降、パン=面白い(ギャグ的側面がある)、というのが頭に刷り込まれてしまっているのですよね。
そのため、パンが出てくると、なんか笑っちゃうんですわ。この演目では、パンが恋人達を救うのだけど、「わー、パンなんかに救われてるよ、あの人達」などと思わず感じてしまうのでした。あらら~。

●「真夏の夜の夢」
音楽: メンデルスゾーン
振付: アシュトン

指揮: ポール・マーフィー
演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【出演】
オベロン: セザール・モラレス
タイターニア: 吉田都
インドからさらってきた男の子: 小林巧(東京バレエ団)
パック: アレクサンダー・キャンベル
ボトム: ロバート・パーカー
ハーミア: アンドレア・トレディニック
ライサンダー: トム・ロジャース
ヘレナ: キャロル=アン・ミラー
デミトリアス: マシュー・ローレンス

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この演目についても、佐久間さんではなく、都さんがゲスト出演する日を選んでしまいました。。。本当に佐久間さんには申し訳ないというか・・・彼女の舞台も観たかっただけに残念な気持ちはあるんですけど、やっぱり都さんには代えられなかったわ~

都さんのタイターニアは、理想的な軸と端正な姿勢が美しかったです。が、私が観たこれまでのタイターニアと比較すると、もう少し華やかさとコミカルなところが欲しいとも思いました。ただ、都さんの舞台というだけで、実は満足だったりします。

モラレスさんは、チリ出身のラテン系のダンサーで私は好きなタイプです。が、この舞台の翌月(6月)の新国立の「ロミオとジュリエット」のロミオ役で拝見しているから余計にそう思うのかもしれませんが、オベロン役よりも、激情型とまでいかなくとも、感情の上下がある役柄の方がぐっと魅力が引き立つ方だろうな、と思う次第です。

ところで、シェイクスピアの戯曲「真夏の夜の夢」のために作曲された、メンデルスゾーンの管弦楽「真夏の夜の夢」に対し、最初にバレエを振付けたのはプティパで、初演はサンプトブルグで1877年。フォーキン版が1906年、NYCバレエ初演のバランシン版が1962年で、いずれもアシュトン版よりも古いけど、少なくとも日本では、アシュトン版(英語での表記はThe Dream)が一番有名だし、上演回数も多いと思う。

アシュトン版の「真夏の世の夢」の初演(1964年)はもちろん英国ロイヤルバレエだし、そもそもシェイクスピアってことでイギリス色が強い。だから、「真夏の夜の夢」といえばイギリスのカンパニーこそが本家本元という印象なんですけど。でも、翻って考えてみれば、「真夏の世の夢」って基本的にコメディなんですよね。このコメディの部分を上手にやれるのは、アメリカのカンパニーだと思う。

たとえば、DVDでしか観てないけど、ABTの公演では、イーサン・スティーフェルのオベロン役は怪演といってよいし、パックは最高の技術とエンターテイメント性をもったザ・キャラクターダンサーのエルマン様で、これ以上のパックは見たことがない。また、バランシン版だったけど、ペンシルベニアバレエ団の舞台を観に行ったときは、その「笑いを取ろうとする姿勢」に舌を巻きました(こちら)。

ほかの国では、「そこまでやったら恥ずかしい」というところまで、アメリカのカンパニーはやってくれるから見てる側は本当に嬉しくなっちゃう。もちろん、この点を捉えて、下品とまではいかなくても「けれん味があり過ぎる」と感じるバレエファンもいらっしゃるでしょうけど・・・。
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by koharu-annex | 2011-07-06 11:55 | バレエ(英国ロイヤル)
英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 2011年日本公演
「眠れる森の美女」(プロローグ付全3幕)
2011年5月22日(日)午後1時30分~ @東京文化会館

音楽: チャイコフスキー
振付: プティパ
演出: ピーター・ライト

指揮: ポール・マーフィー
演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【出演】
オーロラ姫: タマラ・ロホ
フロリムンド王子: イアン・マッケイ
カラボス: マリオン・テイト
リラの精: アンドレア・トレディニック

美しさの精: ナターシャ・オートレッド
誇らしさの精: アランチャ・バゼルカ
謙虚さの精: レティシア・ロ・サルド
歌の精: ジャオ・レイ
激しさの精: キャロル=アン・ミラー
喜びの精: セリーヌ・ギッテンス

長靴をはいた猫と白い猫: ロバート・グラヴノー、カリー・ロバーツ
青い鳥とフロリナ王女: ジョセウ・ケイリー、ナターシャ・オートレッド
赤ずきんと狼: ジャオ・レイ、ヴァレンティン・オロヴィヤンニコフ

協力:東京バレエ団

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「眠れる森の美女」って、あらゆる意味で、てんこ盛り(過ぎる)演目だけど、たまに見ると楽しいですよね。

ロホさんのオーロラの舞台を観るのは、2008年の英国ロイヤル(記事はこちら)に続いて2回目ですが、前回のときの方がさらに調子が良かったような印象ですね。いや、もちろん今回も調子が悪いわけではなく、回転なんか目にも止まらぬ速さでかつ正確にくるくる・くるくる・くるくる回ってらっしゃいましたが。回転については、今、右に出る者はいないのではなかろうか、恐るべし。

ロホさんが、当初想像していたよりもオーロラが似合うという事実は、前回も思い至ったことなんですが、鑑賞者ってどんどん欲深くなるんですねえ。オーロラ以外のロホさんが見たい(笑)。昨年ロンドンのロイヤルが来日したときは、日程上、ロホさんの舞台は一度も観られなかったので・・・。特に、悪女を観たいなあ。

観たいといえば、今回、バーミンガムを代表するカップルである、佐久間奈緒さんとツァオ・チーさんの公演についても、本当はとっても観たかった。ロホさんはあくまでゲストですから、ザ・バーミンガム!は佐久間さんの舞台だと思うんですよね。。。仮にロホさんの舞台よりもグレードが下がったとしても(←もちろん、そうなるかどうかは不明だけど!)、やはり観てみたかった。しかし、日程の都合がついたとしても、2日連続で眠り・・・はお腹いっぱいできついなあ。

カラボスとリラの精が、いずれもロングドレスでした。カラボスが黒を、リラの精が薄紫をそれぞれ基調とした色使いで、微妙なデザイン違い。年齢の設定も、ほぼ同様に見えます(カラボスがおばあさん、というわけではなく、むしろ女盛りで、しかも美女)。これが面白かったですね。分かり易い善と悪というか、表裏というか、陰陽というか。私はこういう類の、本当は2つで1つなんだけど半分に分かれて出てきちゃいました、的なものが何故だかとても好きです。
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by koharu-annex | 2011-07-04 18:31 | バレエ(英国ロイヤル)
英国ロイヤル・バレエ団 2010年日本公演 「ロミオとジュリエット」 
2010年6月27日(日)午後6時~ @東京文化会館

振付: ケネス・マクミラン
音楽: セルゲイ・プロコフィエフ

【出演】
ジュリエット: 吉田都
ロミオ: スティーヴン・マックレー

マキューシオ: ブライアン・マロニー
ティボルト: トーマス・ホワイトヘッド
ベンヴォーリオ: セルゲイ・ポルーニン

パリス: ヨハネス・ステパネク
キャピュレット公: ギャリー・エイヴィス
キャピュレット夫人: ジェネシア・ロサート

エスカラス(ヴェローナ大公): ベネット・ガートサイド
ロザライン: タラ=ブリギット・バフナニ

乳母: クリスティン・マクナリー
僧ロレンス: アラステア・マリオット
モンタギュー公: アラステア・マリオット
モンタギュー夫人: ローラ・マッカロク
ジュリエットの友人: リャーン・コープ、ベサニー・キーティング、イオーナ・ルーツ、エマ=ジェーン・マグワイア、ロマニー・パジャク、サマンサ・レイン

3人の娼婦: ヘレン・クロウフォード、フランチェスカ・フィルピ、ラウラ・モレーラ
マンドリン・ダンス: ホセ・マルティン、ポール・ケイ、蔵健太、ミハイル・ストイコ、アンドレイ・ウスペンスキー、ジェームズ・ウィルキー

指揮: ボリス・グルージン
演奏: 東京フィルハーモニー交響楽団

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この公演は、都さんが95年からプリンシパルを張っている英国ロイヤル・バレエ団からの引退公演になります(正確に言うと、この公演の翌々日29日のロミジュリが最後)。カメラが入ってまして、NHKの芸術劇場で今秋放送される予定だそうです(休憩中もホワイエの様子が撮影されていたので、隅っこに逃げたワタクシでありました…)。絶対に録画しなくちゃ!

さて。
最近、私は、都さんの踊りを見ると、漫画「のだめカンタービレ」のパリ編で、のだめちゃんが時折発っする「正しいカレー」というセリフを思い出します。

本当に・・・いつでも、何もかもが、「正しい」のです。都さんの踊りは。

「自己」の表出を極限まで抑えこんで、役柄の演技においても音楽のカウントについても、ここまで「安定して常に正しく」踊れるというのは、まさにクラシックの王道でしょうが、この王道の真ん中を通ることができる方は、実のところそんなに多くはない。

王道の真ん中を通るためには、その前提として、地味なものも含め全方位的に技術が高くないといけないんですが、技術が高いダンサーは、えてして自我や個性が強いことが多い。そういう方々は、バレエで許される範囲で、ムーブメントでオフバランス(いわゆる「タメ」ですな)を極めようとしたり、自分なりのアクセントを加えようとしがち。
ところが、都さんは、その手のアクの強さが全く無いんですよね。加えて、どこもかしこも正しく、しかも安定している。極めて貴重なダンサーです。もちろん、アクの強いダンサーの踊りもとても素敵ですが、都さんの路線は、現代においては地味かもしれないけど王道として称えられるべきだと思う。

今回のジュリエットも「正しい」お手本のようなジュリエットでした。一つ一つのパだけでなく、そのつなぎの部分まで、それこそ手首・頭の先の動かし方に至るまで、全く「正しい」の。おそらく、録画のどの場面で一時停止ボタンを押しても、画面上の彼女のポーズが「変」であることは有り得ないと思う。あそこまでずーっと正しいと、それだけで感動しちゃいますよ。

ロミオが若いマックレーだったので、大丈夫かな?と思っていましたが、この組み合わせは悪くなかったです。若さゆえの「つっぱしり感」に、まったく違和感がなかったですし。

ただ、相手が都さんで、しかも日本のファンの前でフェアウェルを踊るということで、「絶対にPDDでは失敗しちゃ行けない!」と思っていたでしょうから(笑)、緊張していたんでしょうね。都さんと一緒の場面では、とにかく踊りをきっちりしようと思うあまり、「演技」にまで手が回らず、ちょいと淡白だと感じました。特に、最後の墓場のシーンは、あまりに物足りない。

都さんが一緒じゃない場面での演技は一生懸命やってたような気がします。特に、ジュリエットの手紙を受け取って舞い上がっちゃうところなんか、スピーディーな回転で喜びを爆発させていて、とっても可愛らしかった。ただ、親友マキューシオが殺されたことに逆上して、ディボルトを殺しちまうところは、もう少し激情が欲しいところでしたね。
今後に期待しましょう。

マクミラン版を採用しているカンパニーって世界中にたくさんあると思いますが、カンパニーごとに比較的自由に振付が加えられたり演出が施されているのではないでしょうか。特に、私が印象に残っているのは、ABTのMetでの公演(鑑賞記録はこちら)で、とても素敵だったと思います(まあ、ABTって何もかもが派手華やかですからね)。

マクミラン版の本家である英国ロイヤルのロミジュリは、DVDを鑑賞したことがあるだけで、生舞台は今回が初見だったのですが、今まで観たマクミラン版の中でも地味シンプルな印象でした。あぁ、元祖バージョンって時々こういうことがあるよね、と妙に納得しちゃったというか、ある意味、感慨深かったです。

しかし、ジュリエットのショール、モスグリーンではなく別のダークな色の方がいいなあ。あのショールをなびかせてロレンス神父のところに駆けていく箇所、たなびくダークな色が後の悲劇を暗示する場面でもあるわけで、そこでモスグリーンというのは、むぅぅぅ。
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by koharu-annex | 2010-07-12 20:41 | バレエ(英国ロイヤル)
英国ロイヤル・バレエ団 2010年日本公演 「うたかたの恋」(マイヤーリング)
2010年6月23日(水)午後6時30分 @東京文化会館

振付: ケネス・マクミラン
音楽: フランツ・リスト
編曲: ジョン・ランチベリー

【出演】
ルドルフ(オーストリア=ハンガリー帝国皇太子): ヨハン・コボー
男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ(リドルフの愛人): リャーン・ベンジャミン

ステファニー王女(ルドルフの妻): エマ=ジェーン・マグワイヤ
オーストリア=ハンガリー帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ(ルドルフの父): クリストファー・サウンダース
エリザベート皇后(ルドルフの母): クリステン・マクナリー
伯爵夫人マリー・ラリッシュ(皇后付きの女官、ルドルフの元愛人): ラウラ・モレーラ
男爵夫人ヘレナ・ヴェッツェラ(マリー・ヴェッツェラの母): ジェネシア・ロサート

ブラットフィッシュ(ルドルフの個人付き御者、人気者の芸人): ジョナサン・ハウエルズ
ゾフィー大公妃(フランツ・ヨーゼフの母): ウルスラ・ハジェリ
ミッツィ・カスパル(ルドルフの馴染みの高級娼婦): ヘレン・クロウフォード
ベイミードルトン大佐(エリザベートの愛人): ギャリー・エイヴィス
4人のハンガリー高官(ルドルフの友人): ホセ・マルティン、ブライアン・マロニー、ヨハネス・ステパネク、アンドレイ・ウスペンスキー

カタリーナ・シュラット(歌手、独唱): エイザベス・シコラ
アルフレート・グリュンフェルト(ピアノ独奏): ポール・ストバート

エドゥアルド・ターフェ伯爵(オーストリア=ハンガリー帝国ノ首相): アラステア・マリオット
ホイオス伯爵(ルドルフの友人): ヴァレリー・ヒリストフ
ルイーズ公女(ステファニーの妹): サマンサ・レイン
コーブルグ公フィリップ:(ルイーズの夫、ルドルフの友人): デヴィッド・ピカリング
ギーゼラ公女(ルドルフの姉): オリヴィア・カウリー
ヴァレリー公女(ルドルフの妹): セリサ・デュアナ
ヴァレリー公女の子供時代: ロマニー・パジャク
マリー・ヴェッツェラの子供時代: リャーン・ベンジャミン
ロシェック(ルドルフの従者): ジェームズ・ヘイ
ラリッシュ伯爵: ベネット・ガートサイド

指揮: バリー・ワーズワース
演奏: 東京フィルハーモニー交響楽団

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今回のロイヤルの来日で、最も楽しみにしていた演目は、この「うたかたの恋」(マイヤーリング)です。ロイヤルではメジャーな演目ですが、日本ではなーんと23年ぶり。

私ももちろん生舞台は未見でしたので、バレエ本等で読むたびずーっと「観たいなあ~」と思っていたのでした。なので、本当は22日~24日全ての「うたかた」公演を見たかったのですけど、全部平日やんけ!(リーズとロミジュリは週末にも日程が設定してあるので、当初から日本では馴染みのない「うたかた」は人気が無いと踏んでいたのでしょう・・・ちっ!)ということで、比較的自由になる水曜日しか観られなかったのでした・・・残念。

ちなみに、この日ルドルフを演じたヨハン・コボーは、この公演の翌々日、身内に重病人が出たそうで急遽母国デンマークに帰国され、26日のコジョカルとのロミジュリを降板されたそうです(こちら ・・・奥様のコジョカルは一緒に帰国しなくても大丈夫だったのかしら? なお、26日のコジョカル&コボー夫妻のロミジュリは、都さんのジュリエット以外で即行売り切れた唯一の公演です。ショックを受けたファンの皆様も多かろうと・・・)。

さて、この「うたかたの恋」の物語のネタ元は、実話。
19世紀末のオーストリア=ハンガリー帝国において、時の皇太子ルドルフが、ウィーン郊外の狩猟地マイヤーリングの館で、当時17歳の愛人マリーとともに情死した(享年30歳)、とされている事件です(1889年1月30日)。

ルドルフ皇太子のご両親はこちら。

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ご覧のとおり、ご母堂はハプスブルク帝国史上最もべっぴんさんな皇后として有名なエリザベート。ご尊父はハプスブルク帝国の実質上最後の皇帝であり、「オーストリアの国父」とも呼ばれたフランツ・ヨーゼフ1世であります。

ルドルフ皇太子についてご存じない方でも、この出自だけで「この人、やばそうだな」と想像されるのではないでしょうか。こちらがご本人とその情死の相手とされているマリー男爵令嬢です。

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政治と分離され象徴となっている現在の日本の天皇と皇室のことでさえ、客観的事実を知ることが不可能であるように、こういうお家における客観的真実というものは、文字通り「藪の中」(by芥川)です。19世紀末~20世紀の混迷を極めていたハプスブルク帝国末期においては、なおさらであります。

たとえば・・・

●エリザベートとヨーゼフ1世の夫婦仲
  (1) お互い自由を認め合っていただけで、生活は別々でも、最後まで愛し合っていた。(フランツの愛人はエリザベート公認であり、もともと旅にあけくれるエリザベートが夫に申し訳なくて紹介したとする説も)
  (2) 最初は良かったが、結婚後ほどなくして完全に冷え切っていた。
  (3) そもそもエリザベートはヨーゼフ1世に対し愛情を感じたことはなかった。(愛人の紹介はフランツとの関係をもちたくないため、とも)

●エリザベートの子育てに対する姿勢
  (1) エリザベート自身が、自ら子育てを放棄した。
  (2) 姑ゾフィーにルドルフを取り上げられたために、子育てをしたくてもできなかった。

● エリザベートとルドルフの関係性
  (1) ルドルフはもともとエリザベート似の性格で、自由主義的な教育のおかげで思想も似ていたので、関係は良かった。(エリザベートはルドルフの死後、ずっと喪服で通している)
  (2) エリザベートに母性は無く、また旅に明け暮れていたので、ルドルフとの間に母子であるがゆえの信頼性はなく、関係性は良いとはいえない。(喪服の件は、亡くなってようやく母性が目覚めた、あるいは後悔の念と解釈)

● ルドルフについて
  (1) 聡明な後継者として、期待されていた。
  (2) 知性はともかく、統治者としてはあれはあかんと否定的に評価されていた。
  (3) 既に20代からモルヒネ中毒であり性病にも罹患し、情死する頃には脳もやられはじめていた。

● 男爵令嬢マリーとの関係性
  (1) ルドルフとマリーは真実愛し合っており、ルドルフは当時の妃と離婚してマリーと再婚したがっていた。
  (2) ルドルフの1番のお気に入りは別の高級娼婦(ミッツィ)であり、マリーに対してはそこまでの愛情を持っていなかった。
  (3) ルドルフとマリーは真剣に愛し合った時期もあったが、情死の頃には既にさめていた。

● 死の真相
  (1) ある勢力がルドルフを暗殺したのに、マリーとの情死にみせかけた。
  (2) マリーに別れ話をもちかけたが、マリーは妊娠しておりこれを拒絶。にっちもさっちも・・・な状況に追い込まれたルドルフは、マリーを殺して自殺することを選択。
  (3) 愛し合っているルドルフとマリーが将来のない未来を否定して、心中することを2人で選択。
  (4) ルドルフは、本当はミッツィ(彼の一番お気に入りの高級娼婦)と心中したかったのであるが、ミッツィに断られたため、応諾してくれたマリーと心中した(マリーは恋に恋している状態)。


バレエ「うたかたの恋」においては、以下の説がプロットの前提となっております。

◎ エリザベートとヨーゼフ1世の夫婦仲は冷めていて、お互い愛人がいる。
◎ エリザベートはそもそも母性に欠けて子育てを放棄、ルドルフが愛情を示してもむしろ疎ましく思っている。しかし、情死の直前の頃のルドルフには一抹の不安を感じ、初めて母親らしい面を見せようとする。
◎ ルドルフは愛に飢えた神経過敏な人物で、精神的に分かり易く壊れかけており、娼婦や夜の街に逃げ場を求め、モルヒネもやっている。
◎ 高級娼婦ミッツィがお気に入りであるが、マリー男爵令嬢ともきっちり愛人関係を結んでいる。
◎ ミッツィに心中も持ちかけたがすげなく拒絶されて、乗せ易いマリーを道連れにしたのだが、現場ではお互い心中に向けて心を一つにしている(が、心中の位置づけは各人の内心で異なっている)。


このように、バレエ「うたかたの恋」におけるルドルフの人物像というのは極めて複雑なので、バレエの男性ダンサーの役柄としては、最も困難なものと言われております(次点はオネーギン)。

この日のヨハン・コボーは、ルドルフの心情を余すことなく表現しており、素晴らしかったと思います。見ている間中、私は、コボーを見ていることを忘れ、彼が演じるルドルフそのものに、同情したり、しっかりせんかーとムカついたり、そっち方向に行くなよ、愚か者ー!と叫んだりしていましたよ(ストーリー知ってるくせにね。笑)。
いやいや、彼はこの先も、「コジョカルの旦那」と言われてしまうことはないでしょう。

リャーン・ベンジャミンは、もうかなりのベテランダンサー(ロイヤルでプリンシパルを張って、もう17年…)です。
が、マリーの、若いくせにエロチックな野心家で、生意気にもルドルフを堂々と誘惑したり(ルドルフは内心嘲笑していたでしょうけどね)、他方で、恋に恋している状態で、何の規範意識も宗教的な感覚も持たず、積極的に心中に突き進むという、限りなくおバカな若い情熱だけは十二分に持っているという、歪んだアホ娘を妙に説得的に演じていて、コボーの熱演とのバランスがとても良かった。

満足な公演でした。
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by koharu-annex | 2010-07-11 21:24 | バレエ(英国ロイヤル)
★今月から、エキサイトブログ(無料版のみ)は、記事の末尾に広告が入るようになりました。こちらのブログはバレエ記事が多いため、バレエのDVDなどの広告が入っております。が、もちろん私が推薦するものではありませんし、正直、「こりゃないだろ」的なものもあってショックなんですが、ユーザーにはどうしようもなく。。。でも、ここで有料版に移行するのは悔しいので、無料版でやっていきます。すみませんが、皆様、ご容赦下さい。


英国ロイヤル・バレエ団 2010年日本公演 「リーズの結婚」(ラ・フィユ・マルガルテ)
2010年6月19日(土)午後6時 @東京文化会館

振付: フレデリック・アシュトン
音楽: フェルディナン・エロール
編曲: ジョン・ランチベリー

【出演】
シモーヌ(裕福な農家の未亡人): アラステア・マリオット
リーズ(その娘): マリアネラ・ヌニュス
コーラス(若い農夫、リーズの恋人): ティアゴ・ソアレス
トーマス(金持ちのブドウ園主): クリストファー・サウンダース
アラン(その息子): ジョナサン・ハウエルズ

おんどり: ポール・ケイ
めんどり: リャーン・コープ、イオーナ・ルーツ、エマ=ジェーン・マグワイヤ、ロマニー・パシャク

リーズの友人: タラ=ブリギット・バフナニ、フランチェスカ・フィルピ、ナタリー・ハリソン、ローラ・マッカロク、クリスティン・マクナリー、ピエトラ・メロ=ピットマン、サイアン・マーフィー、サマンサ・レイン

村の公証人: ギャリー・エイヴィス
公証人の書記: ポール・ケイ


指揮: ダニエル・キャップス
演奏: 東京フィルハーモニー交響楽団

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この演目でなにが好きって、おんどり・めんどりの踊りです。
彼らが出てくるだけで、私の顔はにやけます。本物のにわとりの動きを、よくまあ、これだけ踊りの中に盛り込めたものです。
リーズやコーラスが舞台上に出ている場面でも、端っこで、他の「その他大勢の人達」の数人に、おんどりがケンカをふっかけたりしていて(縄張りに入ってくるなー!みたいな?)、マジで笑える。
正直、おんどり・めんどりが舞台上にいるときは、どんなに端っこであっても、凝視してます(私の中では、主役もそのときは脇役です)。
今回は後半で公証人もやっている、ポール・ケイさんが「おんどり」でしたが、楽しげに、でも気合入れて演じていて、私は大満足。

ヌニュスのリーズは良かったです。
おてんばで、ちょいとわがままで、感情の発露が素直で分かりやすくて(ぶーたれるところも、分かりやすくぶーたれる)、元気で可愛いリーズでした。

それに比べると、ソアレスのコーラスは、今ひとつですな。
この人は、ちょっと「俺ってハンサム」オーラがあるので、農夫ではなく華やかな役の方がずっと似合うでしょうね。正直、ぱっと見で、「こんな人、村にはいないよ。」って思っちゃう感じ。

しかも、この日、出だしの調子がかなり悪かったんですよね。
「オーラ出すなら、ちゃんと踊れよ!」と、思わず心の中で突っ込んじゃいましたよ。
後半に行くに従って、調子を上げていったので、微妙にアップ不足だったんじゃあ・・・という疑いも拭えず(-"-;)


それにしても。
この、ラ・フィユ・マルガルテ、「観て幸せになれる、世界一のバレエ」などと宣伝されます。
最終的にリーズに振られて大恥をかかされる、「頭の弱い」アランについても、「赤い傘がありさえすれば幸せ」なので、「リーズの家に置いてきてしまった赤い傘を、ラストに取り戻して幸せになる」ということを前提に、「登場者全員が幸せになるバレエ」などと言われます。

でも、それって、ウソですよね。
現在、これ観て、「ちょっとアランの扱いがひどくない?」と、心がチクッとしない人って、殆どいないのではありませんか?

このバレエの初演は、1789年のフランス、ボルドー。
1789年は、フランス革命の年です。
この時代、農村を舞台にした農夫や村娘達が主役の演劇的な舞踊において、金持ちの息子アランを「頭の弱い」奴に描いてからかうということは、許されるし面白かったのでしょう。

だけど、現代に生きている私は、「お気に入りの赤い傘があれば幸せになれる人なんだから、婚約をひどい形で破棄されようが、親や村の皆の前で大恥かかされようが、赤い傘が手元に戻りさえすれば大丈夫」なんていう感覚には、到底なれないわね。

具体的に言うと、私の友人には、発達障害の兄弟・息子を抱えた方が複数いるけど、彼女達をこのバレエに連れて行けるかっていったら、そりゃ無理よ。
だって、全編にわたって、アランは馬鹿にされ、ひどい扱いを受け続けるんですよ。「頭が弱い」というだけの理由で。

私は、大上段に構えて、「差別的だからこんなバレエ、やめてしまえ」とか、「アランの部分を改変しろ」などと言うつもりは毛頭ありません。
が、そろそろ、「誰でも観ると幸せになれるバレエ」などと、アホな宣伝の仕方をするのは、もう止めませんか?そして、アランについて、「赤い傘があればいつでも幸せ」などと、バレエ紹介本やパンフレット等に、大ボラ書くのも、もう止めませんか?
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by koharu-annex | 2010-07-04 23:20 | バレエ(英国ロイヤル)

英国ロイヤルバレエ団

英国ロイヤルバレエ団の鑑賞記録の過去記事はこちらです。

2008年
7月12日「眠れる森の美女」 @東京文化会館 
7月5日「シルヴィア」 @東京文化会館 
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by koharu-annex | 2010-04-03 16:55 | バレエ(英国ロイヤル)