もしかしてトホホ(http://blog.livedoor.jp/takurere1025/)の別館です。表現系に特化して更新します。


by koharu-annex

世界選手権 女子雑感 その2

勧められて購入したサルエルパンツ。言葉で「こんなやつ」と旦那に説明したら、「・・・アラブみたいな?」と言われて、そういえば起源は中東の民族衣装だったなと思いながら、帰宅してもう1回着てみたら。私が着ると、忍者だったわ・・・がっくし。

さて、引っ張るつもりはないんですけど、とにかく書くことが多くて・・・。とりあえず2位と3位を仕上げたので、先にアップします。

●2位/カロリーナ・コストナー(27歳)/イタリア
SP: 映画「ヤング・フランケンシュタイン」より「トランシルバニアの子守唄」、悪魔のトリル
FS: ボレロ by ラヴェル

コストナーさんも初見なので、書くこといっぱい。
久しぶりに見たコストナーさん、きちんと身体のメンテナンスをしている印象でした。全身のストレッチもよく出来ていて、肩甲骨の動きがとてもスムーズ。

振付は、SP・FSとも、例年通りローリー・ニコルさん。今更ですが、すごい才能ですね。感服するしかありません。大柄なのに良く動けるという、コストナーさんが持っている長所、それを生かし切ると、他の誰にも負けない「迫力」が出る。今季は、今までと比べても、特にこれを真正面から狙った振付のように感じました。

この「迫力」振付が非常に高い好感度を持って受け入れられるのは、彼女がどんなに迫力を出しても、彼女の「女らしさ」が失われないからだと思う。いや、失われないどころか、どんな時でも色濃く漂っているといいましょうか。まき散らしてるオーラに色がついているというか、フレクシアピンク~赤紫のグラデーションだもの(笑)。そうであるにもかかわらず、そこが変な色気に陥らず、むしろ清潔感や潔さを感じることができるのは、彼女のストイックさとか真っすぐな生き方の故でしょうか。

コストナーさんは、ここ数年、演目・振付についてアーティスティックな志向を強めているように思えますが、これはご自身のご意向でもあるのでしょうかね。そういう志向をしても、とんがり過ぎない所も良いと思います。にこやかでおっとりとした雰囲気が緩和するのかもしれません。

それにしても、コストナーさんは、努力の人ですね。後述するように、SP・FSともに非常に多彩な動きが数多く盛り込まれているのですが、昔は、こんなに綺麗なムーブメントでこなすことはできていなかった。表現の地力が突出していなくても(といっても普通以上にあるんだよ!)、地道にコツコツと努力していけば、この境地に立てるんだな。すごいな、努力って。「努力できることは才能」ってよく言うけど、本当にそうだと思う。

さて、SP。
今季見てきた選手のSPでは、アシュリーさんのレッド・バイオリンが一番難しい音楽だと感じていたけど、その上を行ったのがコストナーさんのSPでした。この音楽だと、間を持たせることすら難しい人が多いと思う。

私はこの映画は全く存じ上げなかったので検索したのですが、その限りにおいては、本家フランケンシュタインのパロディであるコメディ映画だとか。が、コストナーさんの演目は、コメディという映画の本質的なところではなく、純粋にチョイスした音楽の印象を中心に作り上げられたものなのでしょうね。

多彩な動きがちりばめられた振付ですが、動きにキレも緩急もありました。首を回すあるいは反らすところでは、きちんと、首の付け根よりもずっと下(肩甲骨の間くらい)からグルンと回し、あるいはグッと反らしていて(でも肩は上がらない)、美しい造形美を醸し出します。こういう動きって、氷上ではバランスが難しいかもなあ、と思っているのですが(知らんけど)、足元の力強さとか安定感には全く変化がなく危なげないですねえ。
あ、そうそう、両手を広げて「なにこれーっ!?」みたいなビックリ顔の小芝居も楽しかったです(笑)。

FS、まさかの刺客、「鼻血」!
人生における3つの坂が1年で全てやってくるとは。「3つの坂」・・・以前の記事で、北の湖を画像検索なさった若い方がいらっしゃったので、念のためご説明。人生にはね、3つの坂があるの。上り坂、下り坂、そして「まさか」。(使い古された言い回しで、もはやオヤジギャグと化している・・・)

昨シーズンの世界選手権を頂点とする好調さ、それはまさにコストナーさんにとって上り坂。その後の、婚約者の不祥事報道等、これが下り坂。そして、今回の世界選手権での刺客、それが「まさか」。

しかも「まさか」の楽曲は、ボレロ。
う~ん、なんて劇的なんでしょう。

ボレロはバレエ音楽として作曲されたのですが、当初の作品は今では殆ど上演されないと思います。少なくとも私は見たことが無い。今、バレエ「ボレロ」といえばモーリス・ベジャール版です。
エイズで若いうちに他界したダンサー、ジョルジュ・ドン(*)がメロディ(後述)を踊ったものが、おそらく世界で一番有名だと思う。元々は女性ダンサーに振り付けられたものなのですが、ドンが映画(**)の中で踊って一気に一般にも有名になったので。

*ドンの晩年のエピソードが以下の書籍に触れられているのですが、胸が締め付けられます…。

闘うバレエ―素顔のスターとカンパニーの物語

佐々木 忠次 / 新書館


**ドンの命を燃やすような「ボレロ」は、今でも映画「愛と哀しみのボレロ」の中で見ることができます。

愛と哀しみのボレロ Blu-ray

紀伊國屋書店



ベジャールのボレロは、赤い円卓の中心で踊るメロディ(1人)と、円卓の周りで踊るリズム(複数)で構成されています。「シャーマンと群衆のようで、宗教みたいで気持ち悪い」と言う人もいますが(うちの旦那とか)、それも外れてはいないと思います(笑)。ベジャールって、人間の心の底にある原始的な部分を刺激することが多いのだけど、この演目もまさにそう。

フィギュアスケートでベジャールのボレロを下敷きにする場合、当然「メロディ」のオマージュとなります。コストナーさんのものも、もちろんメロディ・オマージュ版です(昨季のマヨロフさんもそうでした)。私は、バレエ「ボレロ」の振付がほぼ頭に入っているので、バレエの振付を意識した振付を認知する度、いちいち「おお…」「おお~」「おおおおっ」と反応して忙しかったです(笑)。

しかも、フィギュアスケートの振付への転化の仕方が、とっても上手で、何よりセンスが良いのですよ。すごいなあ、ローリーさん。そしてね、コストナーさんもやっぱり凄い。この振付を滑りながらこなして、しかも、バレエのように周りに群舞(シャーマンに群がる群衆)を従えているかのように見えるほど、氷上に「ボレロ」の世界を作り上げるって、並大抵のことじゃないと思う。

いや~。感服しました。ナショナルで凄い点数が出たのも納得。
刺客無しのが見たかったけど、来季はまた別の演目なんだろうなあ。新しいものも、もちろん楽しみなんですが。

ちなみになんですが、私の場合はバレエを思い浮かべないで見ることが不可能なので、逆に、バレエ「ボレロ」をまだ見たことが無い方が、どういう感じ方をするのか伺ってみたいです。

●3位/浅田真央(22歳)/日本
SP: アイ・ガット・リズム
FS: 白鳥の湖

コーチを佐藤ご夫妻にお願いし、スケーティングと全てのジャンプの矯正を始めてから、3シーズン目が終わりますね。始めたばかりの頃は長いと思っていたけれど、過ぎてしまうとあっという間で、来季はとうとう五輪シーズン。

今回のワールドの時点で、スケーティングとジャンプの矯正や、3Aや3-3を取り戻したいという真央ちゃんの思いが、どのあたりまで実現しつつあるのかは、私には分かりませんが、来季は10合目までたどり着くことを祈っております。

思えば、1シーズン目は、佐藤コーチご指導のスケーティングにまだ真央ちゃん自身が試行錯誤している過程だったようで、試合においても、どこに重心を置いてどう力を入れて滑ればよいのか、意識的に確認しつつ修正していたからでしょうか、なんだか丹田に力が入ってないような、膝がおぼつかないような、今の滑りから比較すると「自信なさげ」な滑りを見せることもあった。(その時、感じた通りに書いたら、こんがり炎上して記事閉鎖に至ったのも、懐かしい思い出。)

震災(日本での世界選手権中止)も重なり、細くなりつつあった身体は、ますます細くなり・・・世界選手権@ロシアからの中継で真央ちゃんの体躯(とあまりに弱々しい滑りを見せる姿)を見たワタクシ、驚愕してしまいましたよ(コメント欄は心配であふれていました)。

そして2シーズン目の時は、お母様の他界と、その後の落ち込み。
そんなこんなを思い返してみれば、今の真央ちゃんの少しふっくらなさった体型は、それだけでもう充分な安心材料。ジャンプはミスが出たとしても、スケーティングからあの弱々しさが無くなったことも、上昇している証拠ですし。

SP、四大陸のときの印象が強烈だったので、3Aを跳んだとは言え、やはり、残念と思ってしまいました。傍目から見ても「おー。とばしてる!」と分かるほど、力強いスピードがあった四大陸と比べると、ちょっと違っていたので、不安はよぎったのですが。今季、鉄板だったSPなのに・・・難しいですね。

FS、NHK杯や全日本の感想をアップしていないので、ここでまとめて「真央スワン」について書いておこうかと。(なお「白鳥の湖」の魅力が二面性にあることは、こちらの記事をご参照ください)。

まず、このタラソワさんの振付ね。

とても「いい!」です。

何がいいってね、タラソワさんはねえ、バレエ「白鳥の湖」を理解している。ものすごく深く、理解してる。それと、真央ちゃんのことも理解している。真央ちゃんの現状(スケーティングとジャンプの矯正中)、真央ちゃんは何が得意で、何が不得意で、そして真央ちゃんの何が観客に好まれているのかを、全てちゃんと理解していると思いました。

真央ちゃんの振付のこなしも、良い線まで来ています。
もちろん、真央ちゃんは、特に何かを考えているわけではなく(例えば「白鳥とは何ぞや」とか)、タラソワさんの言う通りにやってるだけだと思う。だって、彼女、スケーティングやジャンプで、それどころじゃないから。だけど、タラソワさんが、「何点かのポイント」を押さえれば、素の真央ちゃんのままで振付をこなせば、「良い線」まで来られるように作ってくれている、と感じました。

このFSは、大きく分けて3つの場面で成り立っています(今、仮にこの3つを、①白鳥登場、②王子との出会い、③黒鳥、と呼ぶことにします)。

①白鳥登場
この場面で重要なことは、白鳥がどの場面よりも、孤独で、緊張しているってことです。動きも慎重で、少々重々しい。

演目の序盤なので、難しいジャンプが集中するところです。なので、普通にしてても緊張感があるので、そこに引きずられていたんですけども。
今回、はたと気づいて、今季の録画を全部見直してみたんですよ。そしたらね、真央ちゃん、やってますね、ここ。「悲しげに重々しく動く」という演技をやってます。③はもちろんだけど、特に②の後半と比べると、分かると思う。あからさまじゃないけど、やってるって分かって、それを指示したであろうタラソワさんに感動した(笑)。ただ・・・それだけに、「真央ちゃん、much more 指先の緊張感!」というのが、私の偽らざる気持ち。

振付が大分こなれてきた(=①の「悲しげに重々しく動く」ことがうまくなってきた)年明けから、序盤に3Aや3-3が組み込まれたので、ジャンプの緊張感による重々しさとしか捉えてもらえないかもしれず、そこはちょっと損かな。ここを損にしないためにも、ジャンプをビシーっと毎回決めてれば、重々しい演技に「作為感」が出てきて良いのかもしれないけど・・・うーん。

②王子との出会い
ここでは、王子に一目惚れされる白鳥の美しさが無いとダメで、かつ、王子により緊張がほぐれ軽やかになっていく様子が必要。

美しい白鳥の象徴的な動きは、後ろ手にする羽ばたき(視線は右斜め下。これいいよね~)と、小首を傾げる姿。両方とも回を追うごとに上手になっていきました。今回の世界選手権では、小首の仕草が、まるでゆったりと白鳥が首をもたげるように見えましたよ!

軽やかに軽いステップを踏んだり(つなぎ)、女性らしいポジショニングのスピン(これは一目惚れされるところかも。笑)は、緊張がほぐれていく白鳥の様子そのままで、可愛らしさも感じさせます。素敵な構成ですな。

③黒鳥
この場面は、オディール(あるいはオディール的要素)の部分。
オディールといえば、例えばワグナーさんの黒鳥のようなものを想像するかもしれませんが、オディールにも様々な演じ分けがあることは、上でリンクした二面性の記事に書いてあるので、ご参考になさって下さい。
真央ちゃんは、この部分について、力強く黒鳥らしくと指示されているようだけど(それが一番簡単な指示の方法だ)、私は、タラソワさんの狙いは、白鳥の中のオディール的要素の表出、と推測した方がしっくりくるように思います。

全部ツイズルって呼んでよいのかな、バレエで言うとシェネのように連続してくるくると回転するのが、真央ちゃんは上手ですけど(形が良くて速い)、このツイズルをステップに多用しており、非常に印象的です。
バレエのこの場面は、シェネではなくて32回転(フェッテ)なんですけど、フィギュアスケートでは同じ回転技であるツイズルを選択するのが王道でしょう。ツイズルが速いことによって、ある程度の余裕が生まれ、「テンコ盛りで物理的に実現不可能」というリスクも生じない。

真央ちゃんのツイズルが軽やか過ぎた場合、オディール(的要素)のように見えないかもしれないので、タラソワさんもそこここで工夫しています。
例えば、ステップに入る直前(音楽がジャン!と終わるところ)で、「両手を上に上げて、右側に両手首を倒す仕草」。この動きを音楽の終了とともにやられると、バレエ「白鳥の湖」が頭に入っている人間は、無意識に白鳥退場の場面を思い浮かべます。(私は、バレエ「白鳥の湖」が入ってない頭になれないので、そういう人がどう感じるかは分からん。)
また、「頭上で扇子を振っているような仕草」は、バレエ見なら一見して分かる、オディールを象徴する動きです。後ろ向きのバレエジャンプも、黒鳥の特徴的な動き(コーダのときに王子と一緒にやる)を転化したものだと思います。

ステップと最期のツイズルの間に組み込まれた、コレオ・スパイラルでの真央ちゃんの姿勢がまた、非常に美しい。この美しさは全選手中トップだと思います。いろんな報道で、このスパイラルでの真央ちゃんの写真が使用されていたけど、むべなるかな。何ともフォトジェニックなポジショニングでした。


なお、私は、クラシックのバレエ「白鳥」にとても厳しい理想を持っているので、白鳥の舞台を褒めることは滅多にありません(バレエの感想で「白鳥苦手」「白鳥嫌い」とよく言っているのはそのため)。なので、ものすごく正直に言うと、「雑魚(ざこ)は白鳥の音楽、使うんじゃねえっ」って思ってる部分もあったりする。そもそも危険だからね、曲が凄すぎて、演技が追いつかなかったときに音楽に完全に置いていかれちゃうから。
でも、こないだの全日本で、若い女の子の演目で、「白鳥の湖」と言いつつ、ディベルティスマン(宮廷での民族音楽による舞踊)の音楽ばかりつなげたものがあって、「ここまで避けるのは可哀そうだろ。ある意味、新しいけど…」と思ってしまった。まあ、昨年のアシュリーさんの黒鳥以来、少しブームが来てて(実際、全日本でも複数人いたからね)、目新しいところ狙ったら、ディベルティスマンにいきついたのかもしれませんが。

ということで、長々書いてきましたが、結論は、要するに真央スワンは、演目としての完成度がここ数年では一番高かったってことだな。完成版を見られなかったのは残念でしたが、そこはそれ。
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by Koharu-annex | 2013-04-09 01:41 | 2012-2013 フィギュアスケート