もしかしてトホホ(http://blog.livedoor.jp/takurere1025/)の別館です。表現系に特化して更新します。


by koharu-annex

世界選手権 女子雑感 その3

<五輪シーズンに重要と思われるコメントを頂いたので、末尾に追記しました。>

半年遅れてしまいましたが、ワールドの最後の記事をアップします。

●1位/キム・ヨナ(22歳)/韓国
SP: 映画「吸血鬼の接吻」より
FS: ミュージカル「レ・ミゼラブル」より

久しぶりに見たヨナちゃん。髪を茶髪にされているけれど、元の黒髪の方が、彼女の肌の美しさが際立つような気がするぞ。染めるにしても、もう少し深みのある色の方が良いかな(この茶色、肌を変に黄色く見せるような…)。

さて今回のヨナちゃんの演技を見て、ワタクシが最も驚愕したのは、


踊る男達の時代に 踊らない女が登場


ってこと。(踊る=音楽と身体で何かを表現するって程度に考えて下さい。)
いや~。これは衝撃的でした。もちろん、踊り見のワタクシ的には良くない意味で。

ここ最近の傾向として、(高橋さんの影響か否かはさておき)男性フィギュアスケーターがこぞって、それもトップ選手達が率先して、「踊る男達」になってきている。あのチャンさんですら、踊る男を目指して、自分に合う身体表現の方向性を模索している。

そうなると、もともと踊る人達が比較的多く存在していた女性陣だって刺激を受けるわけで。結果、少なくとも私が見てきた限りにおいてですが、今やフィギュアスケート界は、「踊り」への志向性が最も高まっていると感じています。(「さておき」と書いたけれど、正直、高橋さんの影響はかなり大きいと思う。世界を変えるのは、小さな力を結集した大人数のときもあるけど、1人の天才ってこともよくあるから。特に芸術の分野では。)

そんな流れの中で、この「踊らない女」というのは、「2000年に1980年代末期の巨大肩パット」を見た時のようなout-of-date感が漂うなあ。(肩パットまた流行り出してるから、敢えて2000年に限定してみた)

あのね、実はね、彼女の体は、私が想像していた以上にきちんとメンテナンスされてたんですよ。しかもね、試合に出ない代わりにアイスショーに出ていたからかもしれませんが、メンテナンスのベクトルが「踊る」方向に向いていたと思う。バンクーバーの時よりも、身体のストレッチ具合が踊る人により近くなってました。肩甲骨も昔よりも浮き出ているでしょう?ちゃんと、腕や肩、そして胸のストレッチをしていたはずです。
(ストレッチ具合って分かりにくいかもしれませんね。ええっとね、身体を踊る方向に訓練していくと、身体が最大限伸び切れるように、各部位がストレッチされていくんですわ。バレエダンサーの身体が筋張って伸びたように見えるのは、筋肉がついているだけでなくきちんとストレッチされているから。そうそう、別種目だけど、水泳選手の身体もストレッチ具合が良く分かりますね、伸びる動きだから。)

あ、ただね、柔軟性は・・・スケート技術のレベル取りには充分なのでしょうが、女性の身体表現者という観点で見ると、まあギリギリかな。後で触れるけど、彼女はむしろ男性的なムーブメントを主体にしているので、柔軟性は捨てているのかもしれません。まあ、表現者として見た場合、その選択はどうなの?と突っ込みたくなりますが。

ところが、踊れる身体をもっていながら、試合では踊ることを敢えてシャットアウトする。少なくとも、もう少し踊れるはずなのに、敢えて踊ってない。

踊らない理由は、そりゃ点数のためなんでしょうよ。
点数を稼ぐ主要な技術(ジャンプ、スピンetc.)のために、点数にならない踊りは全て犠牲にして・・・というか意図的に排除している。これはSPとFSを見比べると明らか(この点も後述)。

これってバンクーバー五輪シーズンの演技もそうだったから、そういう意味では彼女の戦略はぶれずに変わってない。点数にならないものは徹底的に排除して、その結果得られる余力でもって点数になる部分を死守するという戦略は、潔いほど男っぽい。そう、ヨナちゃんは、ムーブメントだけでなく、戦略そのものも本来の意味で男っぽいのよ。

これは今の時代の「踊る」トレンド(ジャッジがついてきていないので「気分的なトレンド」と言ってもいいかもしれない)には逆行しているように見えても、点数を上げる(あるいは下げない)という意味では最上の策なのかもしれない。その意味で、彼女は最も「勝ち」に拘るスケーターであり、そういう意味で「強い」と評価しても良いのだとは思う。

でも、私は、特に彼女のFSを見て、序盤から失望し、最後にはイラつきました。
イラつきの原因を自己分析すると、「あなた、トップの踊り手じゃないけれど、SP見てるからもう少し踊れること、私わかるわよ?踊れるところまでちゃんと踊りなさいよ!」と思っているってことが分かりました(笑)。いや、勝手な言い分だってことは分かっているんですが。

まず、SPから見て行きましょう。

SPの衣装、前から見るとドラキュラの被害にあって首から血が滴る様子を想像させる赤が、後ろでは深いVになっているという、ユニークなもの。ちょっとグロいと感じる人もいるかもしれませんね。私はこの手の冒険は好きですが。

このSPの振付、単純といえば単純ですが、私は嫌いじゃないですね。彼女の身体やムーブメントの特徴を知り尽くしているウィルソンさんが、その魅力を最大限に引き出していると思います。

彼女の長い手足は、華奢ではありません。女性らしい肌の美しさと白さに騙されがちですが(笑)、彼女の手足はね、少々男性っぽいというか、しっかりとした骨の太さのある、ガッチリ系です。長さがある上に、形も真っすぐなので、全体をぐいんと動かした場合、非っ常~に派手で目立ちます(今のようなストレッチされた「伸びた腕」になると、ますます派手)。彼女の演技のファーストインプレッションが良いのは、この派手さに負うところも大きいと思います。(そして何回も見てると退屈になってくるのも、この手の派手さには人間なぜかすぐに慣れちゃうから。振付やムーブメント自体は単純なので、プラスアルファで何かがないと、すぐに飽きる。)

その長い手足を使った、これまた男性的ともいえる若干ぶっきらぼうだけど、妙に思い切りの良い動きが、ヨナちゃんのムーブメントの最大の特徴で、振付にはこれを生かした大きな動きが随所に盛り込まれています。もちろん、時折アクセントとして、ケレン味のある動きも忘れない。

ヨナちゃんの振付のこなし具合も、素敵ですよ。
ストレッチされた長い派手な腕による、これまた派手で大きな動きを思い切りよくこなすところは、(単純ですぐに飽きがくることはあっても、少なくとも当初は)遠くからでも良く見えるだけでなく、視線を釘付けさせるに十分です。加えてヨナちゃんは、この本質的にはぶっきらぼうで思い切りの良い(だけ)の動きに、手首の美しさを加えました。これはアイスショーの成果かもしれませんね。バンクーバーの時は、SP(007)でも時々しかできていなかったけれど、今回のSPでは全体を通して手首の形づけや動きがとても綺麗でした。アクセントのケレン味のある動きも、この手首の動きの美しさにより、更に魅力的に映ります。

また、見事だったのは、大きな上半身の動きの「勢い」を殺さずに、下半身の動きに連動させて、スピードにつなげているところ。これ、例えば若いジジュンリちゃんなんかを見ると分かるんだけど、まだ筋力や訓練が行き届いていない選手が、上半身の動きを下半身に連動させることは、まず無理です。別々に動いているだけでなく、一方を動かしたりスピードを上げるために、他方の動きやスピードを殺さざるを得ないの。

だけど、ヨナちゃんは、双方連動させるだけでなく、動き(しかも上半身の動き)の勢いをスピードに変えることすらできる。これは、スケートにおける「踊り」の一つの醍醐味でしょう(昨シーズンのケビン・レイノルズさんの宮本さん振付の演技でもそう感じた)。個人的には、全体的な踊り度は低くても、この醍醐味が充分感じられるものである以上、SPについてはもう少し点数が出ても良いのにと思ったほどでした。(だって、「醍醐味」ができる人ほどSSが高いと思われますし、いわゆる「つなぎ」の評価も高くなるはずでは?)

ところが!
FSでは、この手首の美しい動きや、連動・スピードアップによる醍醐味が、残り香程度にしか感じられなかった。これが失望&イラつきの最大の理由です。にも拘わらずあの点数。端的に言うと、非常にムカつきました。

中味を見て行きましょう。
演目のレミゼについては、こちらをご覧ください。

衣装は、随所にキラキラが施されている(しかも良く見ると複数のカラーストーンが使われている)、センスあふれるもの。レミゼの時代に合わせたデザイン(特に袖)ですが、この衣装だけではキャラは分からん(笑)。演技を見ても・・・誰、これ?分からんな~と思っていたら、以前の記事でコメント下さった方が教えて下さいました。韓国の報道によると、コゼットだそうです。

この点、もともとヨナちゃんのキャラ的にコゼットって?ってことは脇に置き、そもそもこの振付には、コゼットをキャラ立ちさせようとする意図は全くないと思います。というか、安定感という名前の「点数の出る技術死守」を最優先すると、出来なかったんだと思う。つまり、FSではSPよりも「点数の出る技術」が沢山あるから、それを本人比で完璧にこなすことを前提とすると、体力的な限界点がきちゃってあとは何もできない。ましてや、踊るなんてもってのほか。実際、ちょっとした味付け程度の動きがあったかな、程度。

何もしないでも過去にずっと点数が出てるから、キャラ立ちさせて何かを表現する必要もなければ、手首なんて些末なところに気を使う必要もなければ、上で述べた「醍醐味」を持ち込む必要もない(おそらくこの「醍醐味」は体力的にギリギリの状態でやるとバランスが崩れる)。そうである以上、そのために必要な体力増強などはやらんでいいと。そんでもって、ぐるっとまわって、今でも「体力的に破綻しちゃうから何もできない」と。むぅ~。

もちろんね、SPとFSの動きが違う選手は沢山いるんですよ。でもね、ヨナちゃんのは、トップ選手の中では、桁違いに「違いすぎる」。見直して下さいよ、ムーブメントが全く違うから。若い選手でもここまで違う人はいないと思う。疲れてへろへろになる人はいても、最初から狙ってここまで押さえこんじゃう人はいない。普通、SPよりもFSの方が見応えあるのに、その見応えが何もない。技術要素の観点からは見応えあっても、私のような踊り見には、文字通り全くもって「見応えがない」。

じゃあ、踊りその他の不要な(=点数にならない)部分を押さえこんじゃうのがいけないのか、と問われれば。
競技としてはいんでしょうよ。へろへろにならないように、演技が破綻せず点数を稼げるように押さえているわけだから。

でもさ。踊り見の私としては、そんな演技、何の価値もないってことになるわけよ。

結局、良く分かったことは、彼女は「点数の鬼」(言い方を変えれば、点数の出る技術の鬼)ってこと。決して表現力で勝負している人でもなければ、断じて「ダンサー」ではない。敢えて踊らないことを選択している人を、ダンサーなんて、絶対に呼んで欲しくない。前も書いたけど、全てのダンサーへの侮辱だから、それ。


<追記>
以下のコメントを鍵コメで頂きました。
五輪シーズンに入り、これから固定読者以外の方も沢山いらっしゃることと思い、「引用OK」とのお言葉に甘えて、ここでご紹介&ご返信させて頂きます。

koharuさんへ、記事に対する反論を投稿します。ダメでしたら読まずに削除してください。炎上を避けるために非公開にしましたが引用okです。また僕はケンカしにきた訳じゃない点と、基本的にあなたの記事を楽しみにしてる人間です。

以前から、ダンスを舐めるな。ダンサーへの侮辱という言葉が気になっています。
そもそもユナ・キムはスケーターでアスリートです。ダンサーを自称してないし、ダンサーとして評価してる人もいなければ、ダンスをしに来てるわけでもない。
「ダンサーへの侮辱」と言われても、それは一体誰への怒りなのか疑問です。
ダンサーじゃない人にダンサーとしての意識を問うのはおかしくないですか?
この言葉に対して、勝つために試合に来てるアスリートを舐めんな!と反論します。
koharu様ももしダンス界の頂点に立ってる人に対して、ダンス知識が無い方からスポーツ的な観点でスポーツ舐めるなと言われれば腹が立つはずです。
またkoharu様はスケートの表現を陸の踊りと混同している点が気になります。踊るだけならただの陸の踊りの劣化。スケートは滑ってナンボ何です。


おそらく、私のブログを昔からご覧になっている方ではないと思います。五輪シーズンに入りましたし、そろそろ新しい読者の方々を想定した書き方をしなければいけないな、と反省しました。

まず、私の基本的なスタンスを御説明したいと思います。このところ読者層が固定されていると思われたため、この点についてご説明することがなくなっていました。

私のブログは、まさに「陸の」舞踊系(中心はバレエ)の表現に特化した観点から述べた、極めて亜流のものです。つまりは、混同しているのではなく、敢えて、その観点から書き記したものです。詳しくは、以前のこちらの記事をご覧ください。また、誠に申し訳ありませんが、私は、どんなご意見がこようとも、上のスタンスを変更するつもりはございませんので、悪しからずご了承下さい。

次に、ヨナちゃんに対する云々のくだりですが、私は彼女に対して申し上げているのではなく、彼女を「表現力がある」「(スケーターというよりも)ダンサーだ」と評価する声に対して、異を唱えています。バンクーバー後のこちらの記事をお読み頂ければ、話の流れをご理解して頂けるかと思います。ただ、誰に対して言っているか、という点については、流れをご存知ない方には今回の記事だけでは理解できないですね。この点については、書き方が悪かったと反省しております。

以上です。
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by Koharu-annex | 2013-10-04 22:37 | 2012-2013 フィギュアスケート