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もしかしてトホホ(http://blog.livedoor.jp/takurere1025/)の別館です。表現系に特化して更新します。


by koharu-annex

HOPE JAPAN

東日本大震災復興支援チャリティ・ガラ<HOPE JAPAN>
シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2011
10月19日(水)午後6時30分~ @東京文化会館

この公演の入場料収入・グッズ販売での収入は、経費を差し引いた全額を東日本大震災・津波の「遺児たち」への支援金としてあしなが育英会に寄付されるのだそうです。経費に何が含まれるか、というところですが、出演者・スタッフの皆様は全員が無報酬だそうです。世界に名だたるダンサーや歌手の皆様が・・・本当にありがたいことです。

最後のスタンディング・オベーションで、私の前列の男性がブラボーの代わりに「ありがとう!」と叫ばれていたのですが、その気持ちはよく分かります(続く方がいらっしゃらなかったのが残念でした。このような声掛けは女性よりも男性の方が声が通るしサマにもなるので、是非男性の観客の皆さまには続けて頂きたかったなあ)。

第一部
●「現代のためのミサ」より“シャーク”(バレエ「ダンス・イン・ザ・ミラー」より)
音楽:ピエール・アンリ
振付:モーリス・ベジャール
出演:東京バレエ団

音楽は1960年代に流行したダンス音楽シャークを取り入れた電子音楽(by配布された演目解説)。群舞で、ダンサーは全員、Tシャツとジーパンをはいています。腹筋と太ももの筋力を使う振付が続けざまに繰り返しでてきて、きついだろうなあ~と思いながら見ていました。

●ニネット・ド・ヴァロワによる詩「満ち足りた幽霊」「子供の言うには・・・」
朗読:アンソニー・ダウエル

あのダウエルさんが、詩を朗読して下さいました。
私の英語力では全てを聞きとることができず情けなさマックスでしたが、ダウエルさんの心を感じるために字幕は見ないでダウエルさんを見ながら聞くことに集中しました。配布された冊子に長野由紀さんの全訳が掲載されていたのでありがたかったです。

●「ルナ」
音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ
振付:モーリス・ベジャール
出演:シルヴィ・ギエム

この日、私は前から片手以内の席だったので、シルヴィさんの肉体を間近で見たのですが、彼女の肉体は年齢を超越してますね。筋肉も、腱も、神経も、何もかも、理想的な完全さとコンディションで、在るべき場所に在るように見えました(実は右足に何かしらの違和感があるのでは?と思った瞬間もあったのですが、それすら凌駕する身体の質の高さというか存在の確かさでした)。

こんな完璧な肉体でのパフォーマンスってある意味現実感がないんですけど、完璧に表現されて「ルナ」も(それを創った故ベジャール氏も)本望だろうて、という感じでした。

●「アルルの女」より
音楽:ジョルジュ・ビゼー
振付:ローラン・プティ
出演:マッシモ・ムッル

ムッルさんを生で見るのは久しぶりだったのですが、かなり疲れているように見えました。もともと細身の体ですが、このアルルの女では上半身が裸なので、肌に張りとつやが欠けているのがダイレクトに見て取れて・・・もちろんあの繊細ながらも均整のとれた美しい筋肉は健在でしたが(でもやっぱり思い出すと筋肉の良い意味での張りがなかったような気がする・・・)

また、もともとジャンプ等に迫力がある人ではなかったのですが、今日のは中途半端で勢いがないというか、このアルルの女のひりひりとした狂気に至る土台が作れなかった感じです。

割と直前になるまで演目も決まらなかったですし、この舞台に出演するためにいろいろと無理したのでは・・・と少々心配になりました。

●「火の道」
横笛:藤舎名生
太鼓:林英哲
舞踊:花柳壽輔

いつも思うのですけど、日本の笛って、あらゆる楽器の中でマイク向きじゃない楽器の最右翼ですよね。笛から発せられる音波のごく一部しかマイクに拾えてない気がする。その上、拾えた部分だけマイクによって変に増幅されて会場に響かされるから、客席で聞いてると、平ら過ぎる安っぽい響きになるというか・・・。能楽堂ならな~と残念感でいっぱいになる。

今回も藤舎さんの笛は、マイクがなければもっと美しかったと思います。でも、そうすると東京文化会館の広さで、観客全員に聴かせるのは無理ですよね。歯がゆいことでありました。

第二部
●「ダンス組曲」より
音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ
振付:ジェローム・ロビンズ
演奏(チェロ):遠藤真理
出演:マニュエル・ルグリ

チェロ奏者1人とダンサー1人が舞台上に。互いに軽い会話をし、気楽に遊んでいるかのように、チェロの伴奏でダンサーが踊ります。こういう楽器奏者とダンサーが1対1の関係で舞台に上がる場合、悲劇が起こることがあります。それは、奏者とダンサーのレベルに一定以上の差があると、下手な方が単体で鑑賞するよりもとんでもなく下手くそに感じられることがあることです。下手さや欠点が増幅されて強調されるというか。何でもバランスですなあ。

さて、今回のチェロの遠藤さん、ルグリさんを相手に善戦していたと思います。ただ、もう少しこなれてたら良かったかな~。まあ、ルグリさんが舞台慣れし過ぎてますからね。普段立たないバレエの舞台に上げられた上、あのレベルの方を相手にすると、常より緊張するのも無理はない話です。

●日本歌曲「十五夜お月さん」「五木の子守唄」「赤とんぼ」「さくらさくら」
歌:藤村実穂子

私はオペラ聴きとはとても言えませんが(オペラを観始めて20分くらいで「歌はもういいから踊れや」と思ってしまう)、私レベルでも藤村さんの名前は聞いたことがあるので、この方があの有名な藤村さんかあ~と見惚れてしまいました。いい意味で男らしいというか、武士道のようなストイックで研ぎ澄まされた香りのする方です。

素晴らしい声量と声の響きでしたが、特にさ行とざ行の発音が明らかに通常の日本語のものとは違っていました。オペラ歌手の方が童謡を歌うと、通常こうなるのでしょうか。それとも藤村さんが外国暮らしが長いからでしょうか。

●「ボレロ」
音楽:モーリス・ラヴェル
振付:モーリス・ベジャール
指揮:アレクサンダー・イングラム
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
出演:シルヴィ・ギエム、東京バレエ団

ことバレエに関しては、日本の観客の方々が、パフォーマンスの「直後」にスタンディング・オベーションをすることはありません。後ろの席の方が舞台上で挨拶をするダンサー達を見ることができるよう、遠慮するからです。スタンディング・オベーションがなされる場合、そのタイミングとしては、カーテンコールを何度か繰り返され帰る人がちらほら出てくるようになってから、というのが一番多いと思います。

例外は、ギエムのボレロです。

ギエムさんは、2005年にボレロを日本で踊ることを封印されたんですが、その封印公演よりも前から「ギエムのボレロ」のときにはパフォーマンスの直後からスタンディング・オベーションが始まっていたように記憶しています。何もかもが別格ですから。今回は、2009年のベジャールさんの追悼公演に続いて特別に封印を解き、復興のために再びボレロを踊って下さるということで、もちろん直後からスタオベが始まりました。毎回ギエムのボレロの時はこう書いていますが、やはり「感想を書くのは野暮」でしょう。

ただ、最後にこれは指摘しておきたい。
ギエムのボレロをあそこまで魅力的にしている大きな要因の一つに、なぜかギエムのボレロの「リズム」になったときだけ強烈に「隠微な色気」を醸し出す、東京バレエ団の男性ダンサー達の存在があります。今回も、その事実を再確認できた舞台でした。
by koharu-annex | 2011-10-22 02:02 | バレエ(座長公演)