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by koharu-annex

ジゼルについて(2)

前回は、バレエ作品「ジゼル」の成り立ちに遡って、主人公ジゼルがどんな少女であるのかという点を検討してみました。

今回は、現在最も多く上演されている版のバレエ「ジゼル」における、主人公ジゼルの見所を押さえた上で、フィギュアスケートにおける「ジゼル」について、私の感想をば。

第1幕は、ジゼルの住む村が舞台です。
多くは、ドイツのどこかの片田舎で、時間帯は昼間、季節は晩夏~初秋で、村では葡萄の収穫祭があったり、貴族の一行が狩の途中で休憩したりします。

ジゼルの衣装は、当然ですが村娘の衣装で、多くは水色~青をポイントカラーとして使用します。
(Kバレエは違っていて茶色の胴着と黄色いスカートです。実はこれは原案の配色に近い。原案はデザインは違いますが、このような配色の衣装に青色のベールがついていたそうです。←シリル・ボーモント著・佐藤和哉訳「ジゼルという名のバレエ」新書館)

第1幕での少女ジゼルの見せ場(&彼女の資質が良く分かる象徴的場面)は、以下のとおり。
(1)恋の真っ只中にある少女のきらめき
⇒ 特に、恋人アルブレヒト(村では「ロイス」という偽名を名乗っている)と花占いでいちゃつくところは、ベタベタで引くかもしれないけど、後の狂乱の場面で過去の幸せの象徴として出てくるので、その仕草まで押さえておきたいところ。

(2)お母さんのいうことはきかない
⇒ ジゼルのママは、ジゼルの心臓が弱いことを心配して、あまり踊らないようにと忠告します。忠告ついでに、「もし無理して踊って死んだりしたら、大変よ。結婚前に死んだ女の子は、ウィリっていう怖~い幽霊になっちゃうのよ~!」なんて2幕への布石となる説明的なマイムをします。
ジゼル、母一人子一人の家庭でありながら、そんなママの忠告に対し、「大丈夫よ~」とばかりに踊りまくります。途中、うっ!と胸を押さえてアルブレヒトに心配されるシーンなんかもあったりしますが、それでもほどなくして踊りの輪に加わります。・・・自覚が足りないというか、自己コントロール力はかなり低め。

あと、本当はジゼルのママは、森番のヒラリオンを気に入っててジゼルのお相手に良いと思ってて、アルブレヒトには違和感を感じてる(これが通常の感覚)。だけど、そんなママの意向について、ジゼルはお構いなしです。まあ、この点については、ジゼルに限らず古今東西多くの娘も同じですかね(笑)。

(3)無邪気な振る舞い
⇒ ジゼルは、狩の途中で村に寄った貴族の娘バチルダ(実はアルブレヒトの婚約者)の装束の素晴らしさに、とっても綺麗~、とばかりに触ってみようとします。ところが、手を伸ばしたところで、バチルダに振り向かれて思わず手を引っ込める。・・・無邪気な田舎者ともいえるけど、すごく子供っぽいともいえる。

(4)狂乱から死へ
⇒ 恋人アルブレヒトが実は貴族で、目の前にいる綺麗な貴族の女性バチルダの婚約者だと知って、彼女は発狂します。髪を振り乱し(これは倒れたジゼルに駆け寄ったジゼルのママが、こっそりジゼルのまとめ髪をほどいて作り出す)、昔の花占いの場面をヨロヨロと再現したり、アルブレヒトの剣を引きずりまわしたりした挙句に、死亡。
 ここは、ジゼルの「おばかさん」の本体というか「変人」っぷりが大暴走するところなので、ダンサーの演技力が極めて重要になってきます。いろんなダンサーの狂女の演じっぷりは、なかなか見ごたえがありますし、1幕の最大の見せ場です。


次の第2幕の場面は、森の中にある墓場で、時間帯は夜、月光の青白い光に照らされています。
下手の隅にジゼルと書いた十字架の墓標があります。
 
ジゼルの衣装は、真っ白で、何枚もの薄い生地(私はオーガンジーくらいしか生地の名称を知りませんが、いろんな種類があるみたいです)を重ねた半透明の柔らかい長いスカートが特徴です。飛び上がると、身体の動きのあとからスカートがふわりと動く、というようなイメージですね。
他のウィリ達や、ウィリの冷酷な女王ミルタも同様の衣装を着ています(ミルタは少しゴージャスバージョンになってます)

第2幕での、ジゼルの見せ場は、以下のとおり。
(1)登場
⇒ ミルタの合図で、ジゼルが墓場からゾンビ、じゃないウィリとして復活(?)。
登場時はなんとも無感情な表情をしており、人間ではない冷酷なウィリになってしまった雰囲気。

(2)墓を訪ねてきた恋人アルブレヒトと「感じる」だけの交信
⇒ アルブレヒトに気づいたジゼルは彼のもとに近づいていくのだけど、彼はウィリとなったジゼルを見ることはできない。でも、確かに彼はジゼルを感じるの。
この「感じる」だけという前提で踊る2人のパ・ド・ドゥは、男性のテクニックが必要なんだけど、これがうまくいってジゼルの重さを感じず空気に溶け込ませるようにして踊られると、とても美しいです。

(3)森番ヒラリオンが殺害されるのは完全放置だが、アルブレヒトは必死で守る
⇒ アルブレヒトよりも一歩先に墓場にきていたヒラリオンは、ウィリ達に力尽きるまで踊らされたあげく、殺されてしまいます。彼については、ジゼルは一切関知せず、殺されるがままにしています。
次はアンタよ!ってな具合に、ミルタを筆頭にしたウィリの群れの矛先がアルブレヒトに向いた途端、ジゼルは彼をかばい、一緒に踊りつつ彼が疲れ果てるのを食い止め、彼を死から救うのです(その後、ジゼルは墓の下に戻っていく)。

ウィリになると、乙女達は優しさを完全に無くした冷酷無慈悲な妖怪もどきになって若い男を貪り殺す、という前提がある中で、このジゼルの行動は完全に異質です。
ですが、ジゼルが異質である原因は、彼女に人間的な優しさが残っているから、ではないのです。異質さの原因は、特定の男性(アルブレヒト)への異常に強い愛情、これのみです。

それが執着にまで至らずに、ラストで彼を生の世界に返してあげる、という設定が秀逸で、ここが人気のある理由の1つでしょうね。


さて、ここまで見てくると、フィギュアスケートにおける「ジゼル」の特異性がお分かり頂けると思います。
まず、衣装が本丸の第2幕ではなく第1幕のものですし、たいていは幸せな恋の雰囲気と不幸せな狂乱の場面の2つをモチーフとしてピックアップしています。(中野さんのジゼルは、まさにそういうジゼルでした。)

つまり、フィギュアスケートにおける「ジゼル」は、バレエ「ジゼル」の本丸を攻めてない、ということになります。
もちろん、これには簡単に想像できる説得的な理由があります。2幕の衣装ではスケートはずばり滑り難いでしょうし、音楽の変化に富んでいるのは1幕だからです。

が、わたくしめは、キムヨナさんのSPは、是非2幕を意識したものであることを願います。
どちらかというと都会的な雰囲気のある彼女には、村娘の衣装が似合うとは思えません。また、2幕のジゼルはアルブレヒト以外に対しては完全ウィリと考えてよいので、1つの特定のもの(アルブレヒト)に対する強い思いと、それ以外に対する異常な冷たさの2つが並存しているという特徴があります。これは、おそらくキムヨナ選手にマッチすると思います。

ということで。

楽しみだなあ!!!!
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by koharu-annex | 2011-04-27 14:11 | フィギュアスケート女子