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もしかしてトホホ(http://blog.livedoor.jp/takurere1025/)の別館です。表現系に特化して更新します。


by koharu-annex

東京バレエ団「オネーギン」

東京バレエ団創立45周年記念公演ファイナル 東京バレエ団初演 「オネーギン」(全3幕)
2010年5月15日(土)午後6時~ @東京文化会館

振付: ジョン・クランコ
音楽: チャイコフスキー
編曲: クルト=ハインツ・シュトルツェ
原作: プーシキンの韻文小説「エフゲニー・オネーギン」

【出演】
オネーギン: 木村和夫
タチヤーナ: 斎藤友佳里
レンスキー: 井上良太
オリガ: 高村順子
ラーリナ夫人: 矢島まい
乳母: 坂井直子
グレーミン公爵: 平野玲

指揮: ジェームズ・タグル
演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


1幕の群舞で自然に拍手が沸きあがる有名な箇所、すなわち、それぞれ男性にサポートされた女性が一列に並んで跳躍を繰り返しながら舞台上を斜めに横切るところ。
一昨年のシュツットガルト・バレエ団(「オネーギン」の本家)の公演時よりも、音楽のテンポが少し早い?跳躍が若干、急ぎ足(文字通りですな)になってたような気が。
まあ、シュツットガルトの整然とした跳躍のときよりも、元気良くて街娘的な感じはありました。
ただ、女性ダンサー達のスカートが太ももの上のまでお乱れ気味になるところが、なんともはや。

オリガの高村さんは、回転技がちょっと不得意なんですね。回転技に入る時、顔が素に戻ることがある。こういうのって本当に一瞬なんだけど、案外目立つので、ちょっと気をつけた方がいいのではなかろうか。

レンスキーの井上さんは、朴訥&人の良さ、そして若さゆえの暴走というのは出てたと思う。
惜しむらくは、ロマンチストな詩人というのが足りないところ。

オネーギンの木村さんを観て、「オネーギン」って難しい役なんだな、としみじみ実感。
1幕で登場した木村さん、「ご…ご愁傷様です、経営されてた会社が倒産したんで?」、と言いたくなる雰囲気。
基本、真面目で品があって、地に足付けて社会生活を営んでいる常識人のような木村さん。都会的で優雅で、社交界で人気があって、でも超~傲慢で、しかも何故だかとーっても厭世的、というオネーギン像からは遠い、というのが正直なところ。

どうすんだろーって思いつつ、2幕。
2幕の木村さんは、「信念を通したら、左遷された高級官僚」、になってた。で、その高級官僚は、パーティーに呼ばれて、合理的にラブレターを処理したと思ったら、やけになって今までやったことがないおバカな方向にはじけちゃうのでした。その後、決闘が終わって、ようやく元高級官僚らしい真面目な顔に戻って、逃走しちゃうのでした。。。

3幕の木村さんは、真面目がアダになったストーカーのよう・・・だけど、思い込みが激しいところ、放浪に疲れて少しうらぶれているところ、運命に翻弄され雷に打たれたようにタチヤーナに爆発的に恋慕の情を抱いちゃうところ・・・これまでの中で、最も「オネーギン」だよ! あぁ、良かった。
・・・でも、ほとんど斎藤さんしか見てなかったっす。スミマセン。。。

さて、斎藤さん。
1989年に、ベジャールが東京バレエ団団長の佐々木さんに耳打ちしたという、「斎藤はタチヤーナの手紙のPDDを踊るべきだ」との言葉から、なんと21年。
その間、タチヤーナを踊る機会が浮上しては泡のように消え、ようやくオーディションに合格した上での今回のタチヤーナ役。東京バレエ団が何度も繰り返した事前広告もすごかったけど、それ以上にすごかったのが斎藤さんの気合。

1幕の寝そべって本を読んでいる登場シーンからしばらくの間、そんなに動きがあるシーンじゃないんだけど、おぉ、何だか緊張感漂ってるのは気のせいかい、斎藤さん、という感じでありました。

鏡のPDD、初恋に高熱出してる若いタチヤーナの妄想爆裂さ加減がよく出ていました。特にリフトされながら足を旋回させるところはスピードに乗っていて、見ごたえあり。

しかし、ラブレターを書く勢いがすご過ぎないかしらっ!?
3回ほど書くシーンがあるんだけど、毎回、ガッガッガーーーッ、みたいな。
いくら妄想爆裂系だったとしても、ラブレターってもっとドキドキしながら、字とか文章とか気をつけて書くんじゃない?(いや、経験ないんだが)
あれじゃ、ラブレターというより、怒りにまかせた抗議文のような・・・

3幕、斎藤さんさすがの貫禄。幸せで安定した結婚生活ゆえに、尋常じゃない幸福オーラに包まれる上品でしとやかな人妻タチヤーナが、まさにそこに。

手紙のPDDは、やはり21年目の正直ということなんでしょう、気合入っておりました。
自分を全く相手にしてくれなかった初恋の人が現れ、なぜか熱烈に人妻となった自分に求愛してくる、という、ある意味、女性冥利に尽きる状況。もちろん、それだけでも動揺する状況なんだけど、それだけじゃなくて、本当に幸福な結婚生活を送ってるからこそ、いっそう動揺しまくる。

冷静を装って、「出て行って」と拒絶するときも、心の中では動揺しまくってる。でも、動揺する一方で、その拒絶の時には既に、「人生には絶対に取り返せない、『機会』というものがある。彼と私の人生が接点をもつ未来は無い。」ということも十二分に悟っている。
私がある程度年を重ねていて、且つ人妻だからってこともあるんだろうけど、この気持ちを見事に表した斎藤さんのタチヤーナには、心底共感するところがあって、涙が一筋こぼれました。
by koharu-annex | 2010-05-23 00:14 | バレエ(東京バレエ)